ネリーが大好きなおとぎ話
浦島太郎
小さな亀に優しくした漁師、時間の流れ方がちがう海の底の宮殿、そして決して開けてはいけないと言われた箱。日本でもっとも古く、もっとも深いおとぎ話のひとつです。
むかしむかし、日本の海辺のある漁村に、太郎という名の心優しい若い漁師が住んでいました。ある晩、浜辺を通って家へ帰る途中、太郎は子どもたちが捕まえた小さな海亀をつついたりいじめたりしているのを見かけました。太郎はやめるように言いましたが、子どもたちが聞かないので、いくらかのお金と引きかえに亀をもらい受け、そっと波打ち際まで運んで逃がしてやりました。
亀は太郎に頭を下げるように、ゆっくりと一まわりして泳ぐと、波の下へ消えていきました。太郎はそのことをもう忘れかけていましたが、翌朝、小舟に乗って漁をしていると、助けた亀よりもずっと大きな亀が横に現れ、話しかけてきました。竜王の娘である乙姫が、太郎のしたことを聞いて、自分でお礼を言いたいと思っている、そう亀は言い、太郎を海の底にある乙姫の宮殿まで連れていこうと申し出ました。
海の底の宮殿
太郎は大きな亀の背中によじ登り、二人で一緒にゆっくりと波の下へ沈んでいきました。深くなるにつれて、水はますます穏やかに、ますます澄んでいき、やがて珊瑚と真珠でできた宮殿にたどり着きました。門は淡い緑色の翡翠でできていました。乙姫みずから出迎え、太郎がこれまで見たこともないほど美しいその姿で、亀に親切にしてくれたお礼を言おうと、太郎を中へと招き入れました。その亀は、乙姫に仕える侍女の一人だったのです。
太郎は大切な客として宮殿に滞在しました。色あざやかな魚たちが中庭で彼のために舞い踊り、宮殿の窓からは、春の桜の花も、夏の緑も、秋の紅葉も、遠くに降る雪までもが一度に見えました。まるですべての季節がそこに一緒に暮らしているかのようでした。ほんの数日だけ滞在しようと心に決めていた太郎でしたが、どの日もその前の日とあまりに似ていて、本当は何日過ぎたのか、数えられなくなっていました。
玉手箱
やがて太郎は、年老いた母のことや、村のこと、砂浜に引き上げたまま残してきた小舟のことを思い出すようになり、家に帰らなければならないと乙姫に告げました。乙姫は太郎が去るのを寂しく思いましたが、引き止めようとはしませんでした。乙姫は絹の紐で結んだ小さな漆塗りの箱を太郎に渡し、いつかまた自分のもとへ戻ってきたいのなら、何があってもけっしてこの箱を開けないと約束してほしいと頼みました。太郎は約束し、大きな亀は水の中を通って、太郎が出発した浜辺まで送り届けました。
けれど太郎を待っていた村は、覚えていた村とはちがっていました。母の家へ続く道の先には、ただの空き地がありました。出会う人はだれも太郎の名を知らず、ようやく浦島太郎という漁師のことを覚えているほど年老いた人を見つけると、その老人は、その名の若者が三百年ほど前に海で消息を絶ち、二度と姿を見せなかったのだと語りました。
年月
太郎は砂の上に座り込み、小さな箱を手に持ったまま、乙姫の宮殿が自分に何を差し出させていたのかを、そこでようやく悟りました。あの三百年という年月は、気づかぬうちにずっと静かに太郎を待っていたのであり、それを遠ざけていたのはただ乙姫の言いつけだけだったのです。太郎の手は、決めたわけでもないのに絹の紐をほどいていました。箱から柔らかな白い霧が立ちのぼり、海の上を漂いながら消えていきました。
ちょうどそのとき、太郎の髪は白くなり、背中は曲がり、両手は細くしわだらけになりました。見逃していたすべての年月が、いちどきに、静かに彼の上へおりてきたのです。太郎はいま、かつて小さな緑の亀を逃がしてやったその浜辺に、ひとり座る老人になっていました。けれど自分でも驚いたことに、太郎は少しも怖くはなく、宮殿のことを、乙姫のことを、浅瀬で頭を下げたあの亀のことを覚えている自分の一部だけは、生きているかぎりずっと、昔のままの若さを保ちつづけていたのでした。
もっと物語、もっと子守唄
これは、世界じゅうの伝統的な物語を集めた、育ちつづけるコレクションのひとつです。できるかぎり、それぞれの物語を同じ文化圏の本物の子守唄と組み合わせています。
